苗先生の回想録】「私と海」シリーズ(二)
- 千樹中国語教室
- 3 時間前
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夕暮れ時のヴィクトリア・ハーバー
香港・ヴィクトリア・ハーバー
文/苗会瓊
地理学的な視点から言えば、香港のヴィクトリア・ハーバー(維多利亜港)は広大な海ではなく、香港島と九龍半島の間に位置し、両端で外海とつながる天然の細長い水域である。それは太平洋のような遥かかなたまで続く雄大さとは違い、生活の匂いがする海だ。防波堤に波が打ち寄せ、タンカーの油の匂いと潮風が混じり合い、陸地に抱きしめられた、そんな海である。
思辰(スーチェン)が4歳だったある夏、私は親友と約束して、子供たちを連れて香港ディズニーランドへ遊びに行った。ヴィクトリア・ハーバーはその旅のほんの幕間劇に過ぎず、割ける時間はごくわずかだった。
うっすらと覚えている夕暮れ時のヴィクトリア・ハーバーは、真昼の暑さが引き、空気には遠くの屋台から漂う食べ物の匂いが混じっていた。夕日に照らされた海面は、まるで揉みほぐされた絹のようで、港の呼吸に合わせてうねり流れていた。間近では、数隻のスターフェリー(天星小輪)が静寂をゆっくりと切り裂き、広がる波紋が両岸へと伝わっていく。まるで時間が水面を緩やかに流れていくかのようだった。
アベニュー・オブ・スターズ(星光大道)に立ち、海を隔てて遠くを眺めると、対岸の香港島のスカイラインが、東から西へと楽譜の音符のように起伏を描いている。中環(セントラル)の建築群は山に沿って建てられ、そこにはIFC、中国銀行タワー、ジャーディン・ハウス、香港観覧車といった香港で最も象徴的なランドマークが、夕映えの中に沈みゆこうとしていた。もしこのスカイラインを交響曲に例えるなら、中環の建築群は最もきらびやかで目を引くカデンツァ(独奏部)であろう。

アベニュー・オブ・スターズ(星光大道)のブルース・リー像
アベニュー・オブ・スターズにあるブルース・リーの銅像は、夕日の下でいっそう力強く見えた。その不朽のシルエットは、彼を愛する多くの人々の心の中で、永遠の抗争と力の象徴として刻まれている。アニタ・ムイの風にたなびくスカートの裾は、香港特有のしなやかさと華やかさを海風に乗せて伝えていた。
ブロンズの手形にそっと自分の手を重ねると、指先に伝わる金属の冷たさと凹凸のある質感は、まるで数十年前の撮影現場の温度と重なるようだった。スターたちの姿が、映画の中や日常の光景として、スライド写真のように脳裏を駆け巡る。この海は彼らの絶頂と引退を見守ってきた。そして今、水面に砕け散る光は、鮮やかな記憶と時空を超えて再会した私への合図のようだった。

マギー・チャンの手形
その後、旅行や乗り継ぎのために、家族で何度か香港を訪れた。スカイ100に登ったり、観覧車に乗ったり、ヴィクトリア・ピークから様々な角度や時間帯の景色を眺める機会もあった。たとえ慌ただしい旅であっても、夕暮れ時には港を散歩し、海風に吹かれ、中環のビル群に明かりが灯るのを眺めたものだ。
最後に、1980年代末に香港に移住した台湾のシンガーソングライター、羅大佑(ルオ・ダーユウ)の言葉を借りたい。彼は港の岸辺に立ち、都市の変遷を見つめ、潮の満ち引きを感じ、五千年の歴史を持つ海風に吹かれながら、この華僑の名曲『東方の真珠』を書き上げた。この随筆の締めくくりとして。
小川は曲がりくねり南へ流れ、香江を見にゆく。
東方の真珠、我が愛しき人よ、その輝きは今もロマンを湛えているか。
三日月の形をした港、振り返れば蒼海は茫々としている。
東方の真珠は夜も眠らず、激動する時代の約束を守り続けている。
2026年2月4日 早朝 バンコクにて




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